モザイク
崩壊しゆく理性
大江はサンダル履きだった。素足にサンダル。この組み合わせは最悪だった。大江が逃げれば逃げるほど、色々なものに感染させていくのだ。勢いが増すと、おのずとサンダルは脱げやすくなる。脱げる度に裸足で歩き、履く時に無意識に塀に手をつく。これの繰り返しだ。

振り向くとまだ学校からそんなに離れていない。どこかの家の庭木の陰から、校舎のちらつきが伺えた。
「もっと、もっと逃げなければ・・・。」
ふと、ジャージのポケットに手を突っ込んだ。すると、そこには小さながま口があった。大江なりの美学でいつも使っているがま口だ。所々、色がはげ布本来の色が顔をのぞかせていた。
「電車だ。電車で逃げよう。」
大江の学校は街の中心にあった。おかげで複数の路線を利用できた。その中の一つの駅を目指す。カナが乗った電車とは別の路線だ。そこまで走った。

「なんだ、この人は・・・。」
大江は事故の事を知らない。だから、この駅の混み具合に驚いていた。改札に向かうにも一苦労だ。何人にもぶつかりながら、とにかく改札を目指した。
「すみません。すみません。」
声を出し、前に進もうとするが無駄だ。人の波は前に、後ろに、左右にと入り乱れ、大江の思い通りに歩かせてくれない。
「しかたない。バスだ。」
人の波にさらわれた先にバス停があった。それを見ての判断だ。
と思ったもの、そこもすごい長い列が出来ていた。
「ここもダメか・・・。」
仕方なく列に並んだ。大江が並んですぐに後ろに、次から次に人が並ぶ。大江の後ろにかなり長い列が出来ていた。
<早く、早く・・・。>
心の中で何度も繰り返す。それは表情にも出ていた。

突然、声が聞こえた。叫び声だ。
「きゃああああああああ・・・。」
皆が一斉に声の方を向いた。
<まさか・・・。>
大江の心の中は不安で満ちていった。
「な、なによ・・・これ・・・。モザイク・・・?」
側で見ていた女が言った。少し前に並んでいた女がモザイクに変わっている。理解できない現象に、軽いパニックを起こしていた。
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