モザイク
重いため息
いっこうに車は進まない。神宮寺のイラつきは募った。
「あぁ、くそっ。」
そう叫ぶと、おもむろに路肩へ車を停めた。側にどこかの消費者金融だろう、水着の女が映っているポスターが貼ってある。目印にはちょうどいい。
「ここで待っていろよ。」
車を降りた後に、そう話しかけながらボンネットをさすった。本来ならこんな所に置いていきたくはない。しかし事態が事態だけに、神宮寺はやむを得ずそうした。そんな不安からの行動だった。

車から離れ、もう一度振り返った。オレンジのボディが輝いている。それを神宮寺は「僕は大丈夫だよ。いってらっしゃい。」と返事しているように感じた。名残惜しそうに、もう一度言った。
「すぐに戻ってくるからな。」

走った。とにかく走った。
はじめは大江と言う教師を捜すのが目的だった。それがいつしか早く車の所に戻りたいと言う気持ちが大きくなり、それが神宮寺の両足を前へ前へと運ばせていた。
それでも車で向かわなければいけないほど遠い場所だ。いくら走ってもまるで見えて来ない。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
自分の息づかいが、耳に煩わしく感じた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
それでも神宮寺は走った。走り続けた。

三十分ほど走っただろうか。さすがにそれ以上走り続けるのは、革靴では無理があった。ゆっくりと速度を落とし、いつしか歩き始めた。
「いったい、いつ着くんだよ・・・。」
天を仰いだ。いつもと変わらない碧い空。今、起きている異常な事態が夢のように感じる。神宮寺はしばらくの間、空を見ながら歩いていた。
「きれいだな・・・。」
呼吸もだいぶ整ってきた。もう一度走ろうとした時だ。
「な、なんだよ・・・。こんなのって・・・。そんな・・・。」
学校はまだ先だ。にも関わらず、そこに続く道はモザイクへ姿を変えていた。そして動いているモザイクもあった。
「もしかして・・・あれは・・・。」
足下には犬が心配そうにモザイクを見ている。散歩途中に感染したのだろう。
「どうしたらいいんだよ・・・。」
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