モザイク
記憶の助け
快調だった。と言っても、それは視界の話だ。駅で拾ってきた破片のおかげで、神宮寺は迷うことなくモザイクの街を歩けた。
そうは言っても、病院まではまだかなりある。足は悲鳴をあげていた。
「遠いな・・・。」
辺りはまだ見慣れない景色だ。もう一時間は歩いている。いつになったら落ち着ける景色が見えてくるのだろう。
誰もいない街。そして欠片をはずしたら何もかもが、モザイクに消えていく街。なんとも哀しい景色だ。
「俺には・・・どうする事も出来ないのか・・・。」
体と心の虚脱感が、一気に神宮寺を襲う。あまりの疲れに側にあったガードレールに腰掛けた。
「ふぅ・・・。」
空を見上げると、太陽は相変わらずだ。何事もなかったように神宮寺に笑いかける。
「なぁ、俺を助けてくれよ。このモザイクに埋もれた街を・・・助けてくれよ・・・。」
太陽に願う。問いかける。しかし、当然答えてくれるはずもない。
「こんなに言っているのになぁ・・・。ケチなやつめ・・・。」
悪態をついた。それでも相変わらずだ。ただ、気のせいか太陽が大きくなったように感じた。
「おいおい、そんなに怒るなよ。」
神宮寺は、それを太陽が怒っていると捉えたようだ。よほど疲れているらしい。太陽に文句言った後うなだれた。
額から滲んだ汗が、一滴、また一滴と垂れていく。汗は地面に落ち、そしてガラスのようにはじけた。きれいな音色が辺りに響いた。しかし、神宮寺はその音には気がつかなかった。
代わりに別の事に気がついた。
「この欠片で世界が元に戻るなら・・・俺の車も元に戻って見えるんじゃないか?」
慌てて欠片を目にあて辺りを伺う。はっきりとは覚えていないが、どうもさっき車を停めた場所が近そうだ。
「どこだ?どこだ?」
立ち上がり、左右を見た。現金なもので、楽が出来ると思うと足の痛みも引いていった。
車はすぐに見つかった。あれだけ派手な色なのだから、見つけるのはわりと容易かった。
カチャッ。
ドアを開けた。さっきはまるでわからなかったドアノブが、今はどこにあるのかよくわかる。ポケットから鍵を取り出し、エンジンをかけるのも容易だ。しかし、ここで大きな問題がある事に気がついた。
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