モザイク
沈黙する親子
父親を呼びに行こう。カナは考えた。
「チロル、おいで。」
カナのあとをチロルは、トボトボとついていく。俯いた具合が、なんとも言えない。
「祈ってたってダメだよね。もう無理だよ。逃げなくちゃ。」
さっき見た街の様子から、そう感じていた。

長い廊下を渡る。自宅と社を繋ぐ廊下だ。この先に父親はいる。祈る声は廊下の途中から聞こえてきていた。
<お父さん、まだ・・・。>
この異常事態を祈りで沈めようとする父。対して逃げようと促しに向かっている自分。何となく自分が恥ずかしく感じた。
あと少しと言うところで、急にチロルが走り始めた。そして、社の扉の前に立ち塞がった。
「どうしたの、チロル?」
チロルは気がついていた。扉の下の方がモザイクに変わりかけている。つまり部屋の向こうは言うまでもない。そんな惨い光景を見せたくなかった。
カナはチロルの制止を聞かずに、そのまま部屋に入ろうとした。カナの靴下を引っ張り、なおもチロルは制止した。
「いつもはいい子なのに・・・どうしたの?」
そう言った途端、汗がドッと滲んできた。最悪のイメージが滲んできた。
「お父さんっ。」
カナは扉を開けた。そこに見慣れたものは何一つない。モザイクだけが部屋を埋め尽くしている。そして中央から父親の声だけが聞こえてきていた。
パニックだ。頭が真っ白になった。次に涙が溢れ、そして叫んだ。
「お父さあああああああああん。」
モザイクになってしまった父親。そして、社はモザイクになっている。
父親にはカナの方がモザイクになって見えていた。
「カ、カナ・・・お前・・・。その姿・・・。」
父と娘、お互いがお互いを思い、泣いた。

「お父さん、どこにいるの?」
社のモザイクに父親は紛れていた。だから、カナは声からしか父親の位置を知ることが出来ない。
「父さんはここにいるよ。」
「ここって・・・?ねぇ、こっちに来れる?」
廊下はいつものままだ。そこなら父親の姿を把握できるはずだ。そう思い言った。
「あぁ、大丈夫だ・・・。」
父親がいるであろう位置が歪んだ。そしてゆっくりと近づいてきた。
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