モザイク
扉を抜ける。そして驚きの声をあげた。
「な、なんだ・・・これは?カナ、いるのかい?」
さっきと逆だ。今度はカナが紛れて見えなくなった。
足下にいるチロルは、カナの後ろをウロウロしている。それが父親の目にはちらついてしかたがない。
「いるよ、お父さん。足下にはチロルもいるよ。でも、わからないんだよね?」
「・・・あぁ・・・。チロルも、お前の姿もどこにいるのか・・・いったい、どうなっているんだ?」
「そこの扉あるでしょ?今、そこを境にして普通の世界と、お父さんも見たモザイクだらけの世界に分かれちゃっているの・・・。」
「なんだって?と言う事は・・・お父さんもモザイクになってしまったのか?」
両手を見た。足下の廊下はモザイクだが、自身の両手はいつもと変わらない。カナの言う事はにわかに信じられなかった。
「お父さんにはいつもと変わらないように見えるが・・・。本当にか?」
「うん、私にはお父さんの顔はわからないよ・・・。」
涙声は強くなっていく。それが父親に真実だと告げている。父親も哀しくなり目元を押さえた。
「そうか・・・。」
それからしばらくの間、ふたりは黙ったままだった。

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