モザイク
「あ、ううん。何でもない。」
「そうか、てっきり何かあったのかと思ったよ。体が大きく震えたからね。」
「お父さん、あのね、こんな状況で普通にしている方がおかしいわよ。か弱い女の子なら、そりゃ震えもするって。」
父親は笑った。
「か弱い女の子ねぇ・・・。」
カナは無視し、外に出ようと歩きだした。

さっきも感じたが、こんな時は本当に広い家は不便だ。ただ、庭に出たいだけなのに、足下に転がる破片が邪魔する事もあって、なかなか外に出れない。
「お父さん、次に家を建てる時は小さな家にしようね。」
「あぁ、そうしよう。」
父親は少し息が切れていた。額には汗が滲んでいる。
その汗を風がやさしく癒してくれた。
「お父さん、あと少しだよ。」
カナの家は、周りに家がない事もあって、わりと開放的だった。さっきも風通しを良くしようと、玄関を開けっ放しにしておいた。それが幸いしたようだ。玄関まであと少しと風が教えてくれる。
目の前に見える光の量が違う。家の中が薄暗くなってしまったせいで、外は光のカーテンのようだ。
「お父さん、もう外だよ。」
「あぁ・・・。」
息が切れすぎて、それ以上何も話せない。

代わりに大地が話し始めた。激しい揺れ。まだ話し足りないらしい。
「きゃああああ。」
カナはバランスを崩した。
「カナッ。」
父親はカナを引っ張り起こした。
「ありがとう、お父さん。」
揺れが激しくカナは壁に手をつき、バランスを保っている。
バラバラと天井が崩れてくる。ここにいるのは危険だとわかっている。しかし動けない。この揺れが収まらなければ、どうする事もできない。
「早く収まって。」
瞼を閉じ祈った。

なんと言う事だろう。カナが祈りに入った途端に、梁が落ちてきた。当然、カナは気がついていなかった。
父親は青ざめた。景色がモザイクに変わっていても、大きなものかどうかはわかる。そして、ここは自分の家だ。何が落ちてきたかもおおよそ想像できた。
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