紳士的なLady



「満原…せんぱ……」

「ほら、泣かないで。澤田さん」



グスッと鼻をすする音と、澤田さんの涙がやけに印象的で。

手の甲で必死に涙を止める姿が、澤田さんの一途な想いをさらに際立たせる。






残念ながら、その相手は私だけど。




「先輩……」



ポツリと澤田さんの声が耳に届いた。


「何?」

「わがまま、聞いてもらってもいいですか?」

「うん。無理じゃない程度なら」



澤田さんに向かってニッコリと笑ってみせる。




「1回でいいんです」

「うん」

「……抱きしめてください………」

「う……?えぇっ!?」

「ダメですか……?」




泣き腫らした澤田さんの赤い目には、私の驚いた顔が映っている。



私、どれだけ間抜けに見えてるんだろうと、下らない事を思いながらしばし、考えてみる。






抱きしめる?

どうして?


私が「好きじゃない」と言ったのに?



理解出来ない。


でも、彼女が可哀想だし……。

チラリと澤田さんの方を見やると、まるで必死に何かを懇願している幼い少女みたいで。




断りにくい。


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