成熟と化して

「で、自殺じゃないんですか?」

頃合いではないが、佐藤は話を戻した。

「ああ、ただ下を見てただけだ」

「本当に?」

「嘘だ」

きっぱりと自分の嘘を認めるサラリーマン。

「じゃあなんで?」

「実は俺は殺し屋で、依頼された奴がここにいるんだ」


とんでもないことをすんなり言うサラリーマン改め殺し屋。

紙田は佐藤に近づき、小声で

「もしかして俺たちじゃないだろうな?」

「…聞いてみましょう」

意を決して殺し屋に聞く佐藤。

「あの…ちなみに誰、ですか?」

「綿左部千鶴という奴だ」

「……誰?」

思わず声を出してしまう紙田なのであった。

「ま、そういうわけだから」

殺し屋はそそくさと屋上を後にした。

屋上に残った二人は、顔を見合わせ

「綿左部千鶴捜しに変更するか?」

「そうしましょう」


二人は、標的捜しをやめ、綿左部千鶴捜しに変更した。

「クラスにいるか?」

「いません」

「俺のところもいない」

「先生に綿左部という名字めいませんよね」

「ああ」

「じゃあ、生徒の中」

「でも生徒が生徒に殺し頼むか?」

「0に近いですよね」

「なーんか、どーでもよくなってきたな」

「はやっ!!」

「よし、やめよう」

「早すぎませんか?もうちょっと」

「解さーん!!!」


そう言って、さっさと帰っていく紙田。

パタンと、屋上には佐藤一人だけになった。

「……」

ドアの方を暫くみたあと、殺し屋がさっきまで見ていたところまでいった。

―誰もいない


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