春も嵐も
「嵐、ちょっといいか?」

トントンとふすまがたたく音と同時に、親父の声が聞こえた。

一瞬だけふすまの方に視線を向けた俺だったが、すぐに目をそらした。

「そのままでいい。

ただ、今から俺が話すことを聞いて欲しい」

そう言った親父に、俺はふすまに視線を向けた。

閉まっていたからわからないけど、そこに親父がいるような気がした。

「実は…1度だけ、お前とお前のお母さんに会ったことがあるんだ」

親父がそう言った瞬間、俺は驚いた。

会ったことがある…?

「覚えてないのも仕方ないか、お前はまだ生まれたばかりの赤ん坊だったから」

親父が言った。
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