春も嵐も
淡々と、親父は昔話をしてた。

親父にも、そんなつらい過去があったんだと俺は思った。

「旅行での夜、泊まるところなんて決めてなかった。

夜の見知らぬ街をただウロウロしていたら、1件の店を見つけた。

『居酒屋紀子』――お前の母さんの店だった」

それは、母さんが女将をしていた居酒屋だった。

俺が高校に入るまで母さんが働いていたのだけど、母さんが病気を患ったので店を閉めたのだ。

まさか、親父が母さんの店に行っていたなんて。

「閉店間際だったからと言うこともあって、お客は俺1人だけだった。

カウンターにお前の母さんとまだ赤ん坊のお前がいた。

お前の母さんは、閉店間際にきてくれた俺を温かく迎えてくれた」

親父は言った。
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