籠の鳥

予兆

徐々に景色に白が混ざって1時間―。

既に周りは白く染まって、空からは宙をさまよいながら肩や頭に着地するモノが積もっていた。

「さみー…」

やつはさんの声は雪の中に吸い込まれていく。

誰も返答はしない。

この足のとられる雪に体温と体力を奪われていくからには、誰も無駄な体力を消耗したくないのだ。

近くの小さな村でコートを買ったものの、雪が降るほどの寒さをしのぐにはまだ薄すぎるだろう。

「手袋も買ったのに…無意味に指先かじかんでるんだけど」

「なら雪持って俺に当てようとしないでくれ。」

ざくやはやつはさんに言い放った。

背後から直球で飛んでくる雪玉をざくやはずっと避けている。

「やだなぁ、ヨロシクの挨拶だよ」

「ママからヨロシクの挨拶は握手だって教わらなかった?」

「握手?拍手?ハックシュン」

「今馬鹿にしたよな?」

爆笑するやつはさんにざくやは振り返って言う。

こんなことが何回もあったが、最初は構ったもののもう呆れてマオとフウは互いに支え合いながらくっついて先を歩いている。
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