籠の鳥

幸福

俺はマントを羽織って寝室を出た。

「まだら、早くしろよ」

「分かってるよ!」

ガラガラと荷物を慌ただしくまとめているまだらを振り返って笑った。

部屋を出るなり足元に飛びついてきたのは、小さな女の子。



「上手く化けられているじゃないか、さや」



さやと呼ぶと目をキラキラとさせて俺を見上げた。

ニコッと笑う顔は、昔のさやと変わらない。



さやはあの後、沈んだあの部屋に倒れ込んでいた。

姿が変わっていたから認識がとれなかったが、俺はほぼ直感的に気付いた。



今のさやは、女が言ったように俺達のことは覚えていない。

だが、昔のように俺に慕い、弟のようだったまだらには兄のようになついていた。


また旅ができるのか……


それを思うと嬉しくて仕方がなかった。


誰も欠けずにまた旅ができるなんて…

そう、"誰も欠けずに"


「さっちゃん、バック忘れてるよ」

後ろからバックと一緒に声をかけられてさやは振り返った。
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