雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~

④複雑な想い

まだ雨は止まない。

急に入った仕事が長引いてしまったため、すっかり外は薄暗くなっていた。


家の前には、ジンや隼斗の車はすでになかった。

紗矢花はもう隼斗と一緒に帰ってしまったかもしれない。

そう思いつつも玄関に入り、紗矢花のスニーカーがまだあることに気づきホッとする。


リビングのドアを開ければ、紗矢花はソファの上で眠っていた。

肘掛けに頭を乗せ丸くなり、あどけない表情で目を閉じている。

透明感のある桜色に染められた唇は、微かに開いていた。

もう少し近寄れば、寝息が聞こえてきそう。


──あの日、その柔らかい唇に口づけた感覚が蘇る。


もう一度、触れたい……。

そんな誘惑が襲ってくる。


けれど、そこまでの勇気はなかった。

スーツの上着を脱ぎ、起こさないよう慎重に紗矢花の肩にかける。

危うくまた、紗矢花の甘い罠に掛かるところだった。

今ここで手を出し紗矢花が目を覚ましてしまったら、彼女に浮気をさせることになってしまう。
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