さよなら異邦人
一学期の成績表が各自に手渡され、夏休み期間中の注意事項が書かれた冊子を担任が配る。

明日からの長い休みに心を奪われ、教室の中が何と無く騒々しい。

けれど、僕の周りだけは、そんな空気から取り残されていた。

何度も隣の空席に目が行き、その度に鎌倉での事が頭を過ぎった。

「ええ、みんなに知らせて置く事がある」

突然、担任が大声を張り上げた。

何事かと静まり返る生徒達。

「影山なんだが、実は……」

言葉を一瞬途切らせた担任の表情を僕は見逃さなかった。

「今日の終業式を欠席したのは、先日から入院していて、その為だったんだ」

「先生、里佳子の病気って?」

彼女の取り巻きが質問した。先生、早く答えてくれよ!

「詳しい病名は判らないが、最初、検査入院をして、今日の終業式には出るという話だったんだ。それが、急遽変更になった。影山のご両親からは、みんなに心配掛けて申し訳無いが、お見舞いとかは必要無いとの事なので、伝えて置く」

教室中が再び騒がしくなった。

「病気ってなんだ?」

「あんた聞いてた?」

「聞いてない」

「お見舞いは必要ないってどういう事なんだろ」

「サンゴ、あんた聞いてる?」

何人も僕に聞いて来た。その度に僕は虚しく首を横に振った。



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