さよなら異邦人
 移り行く日々は、小説程劇的なものじゃない。


 毎日決まった時間に目を覚まし、決まった時間に食事をし、仕事へと出掛ける。


 多少の残業があっても、帰って来ればする事は同じ。


 風呂に浸かって仕事の疲れを癒し、一日二本と決められた350缶の発泡酒を飲む。


 毎度代わり映えしないテレビ番組を観て、他愛も無い会話を妻とし、寝床に就く。


 何処にも小説的な要素など無い。


 だが、そういった日常の中にこそ、書くべきものを見出すのが小説というものではなかろうか。


 私が過ごしたあの日にしても、思えばほんの僅かに非日常的な事であって、人が成長していく過程に於いては誰もが似たような経験をする。


 その中から、何を見て、なにを感じるか。


 それだけの事だと思う。


 その事に、気付くかどうかだと思う。


 そう、気付かない事の方が多いのだ。


 私にしても……。


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