夏の匂い、冬の空気
「井田ーっ!!」

うわっ、私の名前呼んでる…困ったな…何話せば良いんだろう…

「井田、お前目悪いのか?ずっと手ぇ振ってたのに。」そう言いながら近付いてくる。

自転車を降りながら「すみません…」とうつむく私。もっと気の利いたこと言いたいけど、頭の中はそれどころじゃない。

「面つけてる時は堂々としてるのになぁ。お前さ、背も高いし姿勢も良いから練習頑張ればもっと強くなれるぞ!!」そう言って笑う先輩。

「ありがとう…ございます…。」先輩の顔を見て言えば良かった…。

「…それにお前、美人だしなっ!!」
「えっ!?」思わず顔を上げる。

身長が170センチの私に対して先輩は180センチ。私が見上げる男性って身近には父親しかいない。

「ほら、お前、美人なんだから下ばっか見てんじゃねーぞ!!」
何だ、冗談か…と自己完結させて平常心を取り戻そうとする。

「今、冗談って思っただろ(笑)」ケラケラ笑うとはこの事かと思いながら「はい。」と答える。

「お前が入部してきた時、監督はエースが来た!!って喜んでたけど、一番喜んでるのは男子部員じゃねーかな。未経験者があんなに入部したのもお前のファンが…って噂だぜ(笑)」

「監督に喜んで頂けて私も嬉しいです。」と笑顔で言った後に後悔。また気取ったキャラになってしまった…。
「そういう所も含めて、お前、モテてるみたい。」
「モテる?」文字通り「?」が頭を駆け巡る。
今まで異性と付き合った事はないし、告白もされた事もないからだ。
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