夏の匂い、冬の空気
「何だ、君も女の子なんだね」

「まだいたの?学年首位の長島君?」嫌味ったらしく言い放ったが彼には全く効果がないようだった。

「仏頂面の高飛車お嬢様かと思ってたから安心したよ」と不気味な笑みをこぼす。

「何が言いたいの?」

「井田さん、あんまり自分を作ってるといつか崩れちゃうから気を付けてね…」神妙な顔をして言う長島。こいつ、黙ってれば男前なのにいちいち勘に障ることを…。

その時、保健室の先生が戻ってきた。
「井田さん、気が付いたのね、良かった…。ご家族に連絡してお迎えに…」
嫌だ、家族だけには…と思うと握りしめた拳が震える。

「いえ、僕が責任を持って送りますのでご心配なさらず。」長島はそう言って先生の言葉を遮り、「井田さん、立てる?」と手を差し出した。

いけしゃあしゃあとコイツは…と思いながら「自分で立てます」と言い、いつもの人を近付けなさそうな井田春菜に戻る私。

「じゃあ、失礼します」と保健室を2人で後にした。

…2人で…?

「ちょっと、あんた何考えてんのよ」イライラしながら長島に言い放つ。

「怒った顔も美人だねぇ、ファンに見られたら俺、恨まれちゃうな」と笑う長島。

こいつは危険だ。
腕をつかまれた時に本能的に思った。しかも発作まで起こさせたこの男。

「そんなに警戒しないでよ」

「どの口がそんな事言えるのかしら」

「この口だけど…?」と言いながら顔を近付けてくる。近い!!嫌だ!!

気付いたら長島が廊下に倒れていた。
腰が抜けて廊下に座り込んだ私を起こしたのは北川先輩だった。

「大丈夫?」

「あ、はい…」また下を向いてしまった…しかもあんな所を見られて。恥ずかしい。

「おい、お前、井田は俺が送っていくからもう帰れ。」と言って北川先輩は私の肩に腕を回した。
剣道着で裸足のまま、ここまで走ってきてくれたんだ…。

「分かりましたよ先輩。でもアンタ、彼氏でもないのに随分と偉そうですね」吐き捨てるように言うと長島は帰った。
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