僕たちの時間(とき)
 ――はっきり言ってしまえば……僕は葉山が苦手だった。

 僕と違い、何でもかんでも、思ったことはストレートに口に出す。

 ストレート過ぎて、時に不躾で人を傷つけてしまうこともあるんだろうけど。

 でも、それゆえに、いつだって人の輪の真ん中に居る。

 …そんなヤツ。

 だから苦手だった。

 葉山は、きっと“諦める”という言葉なんて知らないのだろうと思えるから。

 こいつは何事でも諦めることなく意志を貫き通し、ついには成し遂げることが出来るだろう。

 ――そう感じさせるオーラみたいなものを放ってる部類の人間、だった。

“可能性”という言葉が良く似合う。…そんな人間。

 それゆえに、これほどまでに自分にも誰に対しても正直で、真っ直ぐで、一生懸命で、いられるのだろうと思う。

 こうして向き合って話していても、僕は常に何かしらの齟齬を感じざるを得なくて。

 それが、ひどく眩しく感じられる時もあり。…また羨ましくさえも思ってしまう時もあり。

 ヤツに近付くことは、だから僕にとって、多分“危険”なことだった。

 諦めたはずのものを、思い出してしまいそうになるから。

 しかし、それが解っていながら……でも僕はヤツから離れられなかった。

 こうして毎日ピアノを聴きに訪れてくれることが、何となく嬉しかったのだ。

 ヤツの言葉は真っ直ぐ過ぎて“苦手”だし、“危険”でも、あるのだけれど……何故だろう、決してイヤでは無かった。


 ――きっと僕は……知らず知らずのうちに、“人間”でいることを望んでいるのかもしれない……。
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