世界はミューズ



ふらふらになって昇降口に行くと拓が携帯をいじりながらしゃがんでいた。ダボダボのダメージジーンズが雨と泥で濡れた床すれすれだ。膝が汚れてしまいそうでひやりとする。
拓は恋人ではないけれど、卒業製作の追い込みのこの時期。未だに放課後に絵の製作をせずに真っ直ぐ帰ったり、授業を中抜けしたりする数少ない仲間だった。

「なにそれ。ウザ。ヒドすぎじゃん。」

死ねばいいのにな。と拓が笑う。
茶髪の根元が随分と黒くなっている。色黒で痩せっぽっちで未だに中学生みたいな男の子だ。

「うん。ありえなかった。」

私は教師への怒りでそこら中に当たり散らしたくなったが涙が滲んだだけだった。拓に気付かれる前に急いで袖で拭き取る。
わかっている。悪いのは真剣にならない私だ。


三年前に使った校門前の公衆電話はいつの間にか撤去されていた。
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