薔薇色の人生
怒りのままに
居間にあった名刺を頼りに不動産屋を訪ねた。表通りから1本路地を入った所にその不動産屋はあったが、周囲は平日の昼間という事もあり閑散としていて、お世辞にも活気のある通りとはいえない。そして店の前にはパトカーが回転灯をつけて停まっていた。僕は胸騒ぎを感じ、昭一の無事を祈りながら近づいて行った。店の中にはこの店の従業員が数名と制服警官が二人立っていて、昭一の姿はない。店に入ってきた僕に気付いた警官が『あなたは?ここの関係者?』とぶっきらぼうに尋ねてきた。『昭一は…三郷昭一君は来てませんか?』僕の質問を理解した不動産の社長が『あんたは希望園の人か?』と睨みつける様に訊いてきたので『僕は山の上の牧場で働いている鬼塚と申します。希望園の三郷昭一君がこちらに来ていないかと思いまして…』社長はバツの悪い顔をして『あぁ…さっき突然店に飛び込んできたさ。応対した社員に向かって弟や妹が何とかって泣き叫んで暴れやがった。止めようとしたウチの社員と揉みあっているうちに自分で倒れて、そこのテーブルの角に頭をぶつけてよ…。仕方ないから救急車を呼んでやったんだ』とテーブルを指さした。見ると絨毯に血がついている。僕は思わずカッとして『子供に何て事をするんですか!恥ずかしくないのか!』取り乱す僕を警官その1が『まぁまぁ。まだ事情も聞いていませんので一概にどちらが悪いとは判断できませんよ。その三郷君という少年にも治療が終わり次第、話を聞きに伺いますんで。今日はお引き取り願えませんか』と、間に割って入ってきた。『事情もクソもあるもんか!子供に怪我を負わせたうえに救急車を呼んでやっただと…?理由が何にしろ僕はあなた達を絶対に許さない!』と言って店のドアを開けて出てきた。怒りで身体中が震えている。こんなに怒りを覚えたのは生まれて初めてだった。すれ違う人が僕をチラチラ見ている。おそらく凄い形相をしているに違いない。車に乗り込む前にタバコに火をつけて、平静を取り戻すためのクールダウンを試みた。あんな横暴な連中に希望園を好きにさせてたまるかという気持ちと、まだ中学生なのに単身で兄弟達を守ろうとした昭一の想いを考えると、涙が止まらなくなった。車の横でうずくまり声を出して泣いている僕を周りの人が遠巻きに見ていた。
< 17 / 42 >

この作品をシェア

pagetop