薔薇色の人生
翼を傷めた天使
僕は希望園に電話を入れてから警官その2から渡されたメモを頼りに病院に向かった。受付を訪ねると昭一は頭を5針縫い、ベッドで眠っているという事だった。担当の医師に怪我の具合を聞いてから病室に入ると、顔を窓側に向けて昭一が静かに眠っている。そっと顔を覗くと目の周りを赤く腫らし、涙の痕跡を残した子供の寝顔がそこにあった。生後間もなく親に捨てられ身寄りのない彼をこんなに優しく、勇気のある男に育てた希望園という暖かい場所。その家族達を守ろう…それが人間としての僕の役割だと神の声が聞こえた気がした。そして部屋の扉がノックされ、池谷さんをはじめ、希望園の兄弟達が入ってきた。兄弟達は昭一に飛び付いて抱きつこうとするのを美希が眠っている彼を起こさない様に言い聞かせている。僕は池谷さんと部屋を出て待合室に向かった。《昭一の怪我の具合はどうですか?》『頭を5針縫いましたがその他は大丈夫です。目が醒めたら脳波の検査をするそうですが、先生も多分大丈夫だろうという事でした』そう伝えると池谷さんは安堵の
表情を浮かべてから下を向いて大きなため息を一つはき出した。《あの不動産屋の亡くなった先代の社長さんは私たちの施設の必要性をとても理解して下さる、とても寛大な方でした。しかし今の息子さんが継いでからは賃料の値上げに始まり建物の損金の定額負担、そして今回の立ち退き要求です。先代のお気持を無にしてはならないと思いながら運営して参りましたが…正直言って今の所から新しい場所へ移る資金も残っていません。明日から市内の施設へ…子供達…の、引き受けを打診するつもりです』手話をしながら、涙を拭きながら池谷さんは一生懸命に話してくれた。僕には何も解決するための提案ができず、ほんの少しの勇気も与える事ができない。清らかな心と周囲を安心させる包容力を持つ彼女がもがき苦しみながら堕ちていく。まるで翼を痛めた天使の様に。
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