好きだと、言って。①~忘れえぬ人~


大事にならなかったのは、熱射病の知識があった伊藤君の適切な手当のおかげだ。


応急処置の後、すぐに到着した救急車で病院に連れて行ってもらった私は、点滴と点滴をしている間の爆睡ですっかり元気になった。


私自身は、死ぬかと思うほど苦しかったあの状態は、比較的軽い症状だったそうだ。


こんな騒動に巻き込んで、せっかくのお休みを台無しにしてしまった伊藤君には、本当、申し訳ないって思う。


夕方。


伊藤君に実家まで送り届けて貰った私は、夕飯を食べた後、頃合いを見計らって、浩二の家に向かった。


目的は、もちろんただ一つ。


ったく、浩二のやつ。


とっ捕まえて、どんな魂胆なのか、白状させてやるっ!


ムカムカと、絶好調にむかっ腹を立てつつ。


私は、浩二の部屋の襖を、力いっぱい開け放った。


バチン!


と、まるで今の私の心の中を表すような、派手な音を上げて襖が全開する。


勝手知りたるこの従弟の部屋に、最後に来たのは、いつだったか。


たぶん、高校の時だと思うけど、その辺は定かじゃない。

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