好きだと、言って。①~忘れえぬ人~


その夜。


私は、疲れ切った重い体を引きずるようにして、アパートへの帰路についた。


明日は月曜日。


しがないOLの身では、落ち込んでいるからと言って、月曜から会社を休むわけにはいかない。


バスと電車を乗り継ぎ、アパートの最寄りの駅に着いたのは、夜の十一時を回っていた。


体にまとわりつく湿気を含んだ生ぬるい夜風が、昼間の海での出来事を思い出させる。


陰りのない、真っ直ぐな黒い瞳。


少年の様な、屈託のない笑顔。


頬に伝う涙を拭う、優しい指先。


ヒンヤリと、心地よい体温。


甘い香りと、そして――。


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