好きだと、言って。①~忘れえぬ人~
「ああ、やっぱり、亜弓か。どうしたんだ、そんな所に突っ立って?」
聞き慣れた穏やかなトーンの優しい声音が、夜のとばりに包まれた路地裏に静かに染み渡る。
「直……也?」
コンビニの買い物袋を下げた、メガネの男性。
アパートの入り口から、ゆっくりとした足どりで歩み寄ってくる懐かしい人影を認めて、心の中に広がったのは、泣きたくなるような安堵感。
私は荷物を路上に置いたまま、そのまま引き寄せられるように、ふらふらと歩き出した。
浩二。
浩二は、間違ってるよ。
伊藤君を思うような、激しい気持ちじゃないけど。
私は、直也が好き。
こんなにも、好きなんだから。