好きだと、言って。①~忘れえぬ人~

ハルカが、火葬にされている間。


私は、親族の人たちのいる控え室から一人離れて、火葬場の玄関ポーチから、ボンヤリと周りの景色を眺めていた。


小高い丘に建てられているこの火葬場からは、のんびりとした、午後の田園風景が広がっているのが一望できる。


先日まではあんなに、もこもこと賑やかに空を埋め尽くしていた入道雲はいつの間にか姿を消して、今日は秋めいた薄い鱗雲が広がっていた。


うるさいくらいに大合唱していたアブラゼミの鳴き声も、心なしか元気がない。


頭を垂れ始めた、黄金色に変化しつつある稲穂の間を吹き抜けてくる風に微かに混じっているのは、もうそこまで来ている秋の気配。


秋の気配が混じった、それでもまだ夏の名残りを充分に含んだ、生ぬるい風に頬を撫でられながら、


私は、静かに目を閉じた。
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