好きだと、言って。①~忘れえぬ人~

その言葉に、嘘はない。


あんないい人、二十五年という私の人生の中でも、滅多にいやしないって、そう思う。


「じゃあ、聞くけど、愛してる?」


「え……」


『愛してる?』


って、聞かれても、私に即答は出来ない。


だって。


愛って、何?


付き合っているから、愛してる?


恋人だから、愛してる?


分からない。


確かに、直也は初めての恋人だし、尊敬できるし、いい人だ。


好きだって確信はあるけど、だからと言ってそれが『愛している』ってことなのか、分からない。


だって、他に比べようがないんだから。


私の中に、その明解な答えは、まだ形作られていない。


「私から見ても篠原さんは良い男で、しかも良い夫になる人間だと思うよ。まあ、後悔しないように頑張りなさい」


答えに詰まっていると、礼子さんは『はぁっ~』っと長いため息をついて、私の肩を労るようにポンポンと叩いた。

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