好きだと、言って。①~忘れえぬ人~

「持ってきた本、全部読んじゃって退屈してたところだから、助かっちゃった。あ、ミニ向日葵だね。わたし、大好きなんだ」


『えへへ』と、はにかむように言うその表情に、涙腺が悲鳴を上げる。


ああ、ヤバイ。


マジで泣きそう。


な、なにか、気持ちを紛らわせる方法は!?


忙しなく考えを巡らせていると、今自分が手渡したばかりのミニ向日葵の花束が目に止まった。


これだっ!


「あ、花瓶ある? 私、お水汲んでくるから」


これは、花を花瓶に活けるのを口実に、いったん病室から退散しよう。


そう目論んだのに。


「あ、花瓶はそこ。入り口の洗面台の下に入ってると思う」


ハルカの白い指先が指し示す方に、ハッとして顔を向ける。


げげ。


そうだった。


この病室、部屋の中に、洗面台もトイレもくっついてる!


「あ、あはは。今の病院って、至れり尽くせりだよねー。ビックリしちゃったよ、私」

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