亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
貧しい家庭で育ったライには、当たり前だが貴族が身に付ける一般教養というものがある筈も無く…当然ながら、文字の読み書きや最低限の算数以外の学問とは縁もゆかりも無い生活を送ってきた。
そんな自分に突然歴史の話を、しかも生きていく上で別段知らなくても良いであろう古代の話などされても、こちらも当然ながらライには理解出来ない事である。
急に熱意で目を輝かせ始めたユアンを、ライは冷静な目で見詰める。
…内容自体よくは分からないが下手に質問をするのも話の腰を折るだけだ、とりあえず頷いておこう…と首を機械的に上下に動かした。
…これはあれだ、刺繍の話をするレヴィを前にした時と同じ状況だ。
あの白槍が、レヴィが、妙に鬼気迫った真顔で刺繍に関するマシンガントークを惜しげもなく、呪文の如くつらつらと並べてくる姿は、どん引きを通り越して恐怖を感じる程だ。
聞いてもいないのに話してくるそういったマニアックな者への対処法は、心得ているつもりだ。
目を見て、聞いて、頷いて、絶妙なタイミングで「なるほど」と相槌を打つ。これで万事解決だ。
リディアとロキとでいつぞやにか編み出した、“刺繍馬鹿のレヴィに対する正当防衛”である。
僕達は、これで乗り越えてきた。
「歴史家達の中では、この戦争があった時代は今よりもずっとずっと資源や生活、魔法や獣、兵力も豊かだったという説があるのですが………戦争終結と共に、それらの文明は何故か喪失してしまったらしいのですよ」
「…へぇ」
「喪失の理由は、分かりません。ですが、熱心な学者達はこの高文明の解析を進めています。僕もまぁ趣味としてですが、その研究をしていましてねー………稼ぎのほとんどは、その研究費に回っているんです」
「…なるほど」
「夢中になることには、金を惜しみません。夢のためならば、僕はきっと何でもするでしょう………まぁ、その辺は気紛れですがね」
「…えーと、なるほど」