亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


――刹那。

…ぐらりと、平行線を辿るばかりの会話を続けていた二人の目線が、上下に大きく揺れた。



「――うわっ!?」

予期していなかった浮遊間が二人の身体を襲い、舌の上まで出掛かっていた言葉を飲み込んで揃って息を止める。
唐突に奪われた平衡感覚は直ぐに戻ったが、この現在進行形で起きている状況に頭が追い付くのは、数秒の時を要した。


「――……ガ、ガーラ!?」

相棒の名を思わず叫ぶのも無理はない。
ガーラは、ライが三槍に属した頃からの長年の相棒だ。まだ野生だった捕らえたての若いバジリスクをそれこそ死に物狂いで手懐け、調教し、ここまで信頼関係が築ける程にまで至ったのだ。
ガーラからすればライの命令は絶対で、ライが望まぬ事はガーラも望まないのだ。

…その、ガーラが、である。
何の前触れも無く、何の指示も出されていないのに、急に砂漠の向こうの闇に向かって前進したのだ。それも、全速力で。

「ガーラ!一体どうしたん…うわぁっ!?」

急発進した直後、咄嗟にガーラの背に掴まったおかげで振り落とされずに済んだらしいユアンの無事を確認し、前に向き直ったライは慌てて手綱を引いて暴走を止めようとした…のだが、いつの間にそんな所にいたのだろうか。
ガーラの頭の方にまで移動していたらしいサナが、全速前進するガーラの揺れに耐えきれず、跳ねた軽いボールの如くそのまま真っ直ぐライに向かって飛ばされてきた。


そこは機敏な世話係のライ。
持ち前の器用さと根性と母性愛的な何かで見事にサナを胸に受け止め、ガーラの背を一回転しつつもどうにか振り落とされずに止まった。
勢いで吹き飛ばされたティーも、ユアンが素早い動きで空中で摘んで拾い上げる。


「サナ、大丈夫かい!?…先生も大丈夫ですか!!」

「おまけみたいに付け加えるのは止めて下さい!何とか、無事ですが…躍動する、岩山を、登るなんて…スリリング過ぎや、しませんか!」

ガーラが物凄い勢いで砂を掻き分けていく音を挟んだ状態で、二人は不安定な足場から落ちぬ様に注意しながら声を張り上げる。
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