The Nightmare Eraser 悪夢を消すもの
 闇の中を、彼女は走っている。空には月も星も無く、視界は暗い。
 ジットリと暑い、真っ暗な竹林の中。ボコボコと足元をうねる竹の根も、思わぬ場所にあった石も、既にどこにあるのか、どう走れば竹林から出られるかも判っている。
 分からないのは、夢から覚める方法と、追いかけてくるアレの正体くらいだ。

 ……っつ、はぁ……はぁ……。

 ズ……ズルッ……。

 すぐ後ろから聞こえた音に、美耶の心臓が更に早鐘を打つ。

 嘘!? 近い……!

 竹林の出口まで、あと数メートルだ。

 建……! 大丈夫だよね? たける! たける!!

 出口まであと一歩という所で後ろから「ギャッ!!」という音が聞こえた。
 思わず振り返ると、満月のススキ野原が広がっている。

 え……?

 辺りを見渡すが、今まで走っていた竹林もその向こうにあった竹垣の続く大きな屋敷も、影さえ見当たらない。そこにあるのは、どこまでも続くススキ野原と輝く満月。そしてサワサワとススキを揺らす風だけだった。

 どういう、こと?

 ポカンと満月を見上げる美耶の視界の端で、何かが動く。
 あっと思う間もなくそれは美耶の正面の空にやってきた。大きな胴体に太い四本の脚、鼻は長く、しかし優しい目をした動物で、細い尻尾の先には筆のように毛が生えている。そしてその動物は、満足気な表情をしている様に見えた。

 もしかして、獏……?

 建の言葉に想像した姿とそっくりだ。しかし、先程まで後ろに感じていたものの様な恐ろしさは全く感じない。
 美耶の問いかけに肯(うなづ)くような仕草をして、その動物は、夜空の向こうに消えた。




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