幸福論
「愛ちゃんの彼、かっこいい子ね。
ママ、ドキンっとしちゃったよ。」
ママの声におばあちゃんが笑った。
「愛ちゃんも高校生やモンなあ。
咲ちゃんと亮も高校の時出逢ったんやから、そら、愛ちゃんにもそんな相手出来るわな。」
おばあちゃんの楽しそうな声に、気持ちが解れた。
だって、何となく幸谷君をママとかに紹介するのが怖かったから。
だって、私の周りに居るタイプの人じゃないから。
情けない私の弱い心が、自信を無くさせるの。
「愛ちゃん?
今度、幸谷君、お家へ連れていおいで。
おばあちゃんがお好み焼き作るわ。」
「おばあちゃんのお好み焼き絶品だもんね。
でも、幸谷君の事見たらパパ、倒れちゃうかもね。
パパ、愛ちゃん命だから(笑)。」
「ホンマやな。
自分も一緒の事してんのに。
男はあかんな。」
おばあちゃんとママの楽しそうな笑い声を聞きながら、さっきの学生服でも私服でもない幸谷君を頭に浮かべた。
仕事をしてる幸谷君は、一段とカッコよく見えた。
ガソリンスタンドのツナギ姿も
汗で湿ったTシャツも
捲った袖口から覗く逞しい二の腕も、全部にドキドキした。
一瞬しか見ていないつもりなのに、鮮明に浮かぶ幸谷君の姿に、カラダがカッと熱を持ったのを感じた。
私の知らない幸谷君を知る度に、もっと、深く恋に落ちる。
恋を知らなかった私は、自分のこの感情の行く末がわからない。