ALTERNATIVE Ver.0.5
中に入った男は驚いた。

体が不自由な人のトイレよりも一回り、いや二回りも大きい。


でも、男とか女とかそんな表示もなかったから、これはおそらく、オールマイティユースなトイレであるのだろう。


実に合理的で経済的じゃないかという風な顔をして男は頷き、ふむふむと納得した。

目は1点、便器が奥の壁際に白く輝くのを見た。



麻の葉を燃やした臭いがする。お香なのか。

その香りにすこしリラックスしながらぼんやりと、黒いアジアンテイストと和風を足したような大きなすだれ? のような窓というか壁を眺めた。

窓。


おおきな窓、いや壁一面には細い隙間がたくさんあり、そこから光が刺し込んでいる。


こちら側からは、どうゆう仕組みだか外がよく見える。


店の外が見える。

さっきの喪服の集団だ。

いったいこの行列、何十、何百人いるのか、後ろを振り向くとさっきまでいた店内が見える。男は強引に雑貨屋の店主の趣味だと頷き納得した。

扉は確かに外側からは中は見えなかったよな。

…外からは、何も見えなかったのになと繰り返し確認するように思いかえし自分に言い聞かせるようにつぶやきもって鍵をかけようとしたその時。



そのドアはなんと鈍い金色の針金フック式であった。



ありえない。


この少し大ぶりなピアスほどの穴に、こんな細いよれよれの金属で、と思いながら男は人類最大のプライバシーセキュリティをこんな針金フックひとつに託すのかと凝視しながら、その華奢な金属棒を親指と人刺し指で、丁寧につまみあげて、カチャリと丁寧に穴に通した。

個人情報保護法案なんて関係ない。その前にトイレの鍵だろう……


頼りないからだろうか、何度もドアがこのフックをした状態で本当に持ちこたえるかを、扉を押したり引いたりギコギコ耐久テストをし、首をかしげながら男は、いよいよベルトを外した。

そのベルトの突起部分。

その突起部分のほうが、さきほどの針金フックの金属よりも太くて固そうだなと見比べながら洋式トイレに腰をおろした。


(ここから先は、さすがに食事中の方は読み進めないでください)
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