水とコーヒー
背中が途端に寒くなり、全身から冷や汗が吹き出すのがわかる。多分シャツに隠れた部分は鳥肌になっているだろう。

「正直…怖いです」

「そうよね。でも大丈夫よ。私も一緒にいくから」

「え?」

「んー…なんかトンデモっぽいけど、まぁ事が事だしね。出来るだけ信じてちょうだいね。意識を同調させて、貴方が見ている光景を私も見るのよ。そうすれば私にもそれが見えるから。私が誘導して貴方の家の中を明確にしていくから、その中では貴方が私を誘導するっていう感じね」

「なんか…また、わかったようなわからないような…」

「うん、でも別に危険があるわけじゃないから。試してみる感じでね」

「はい。でもどうやって?」

「えーと、まぁ簡単な方法だと普通にリズムをあわせればいいんだけどね」

そういうと先輩は右手の人差し指でテーブルをコツコツと叩き始めた。

とんとんとーん・とんとんとんとん

とんとんとーん・とんとんとんとん

とんとんとーん・とんとんとんとん

「いちにーさぁーん、ごーろくしちはち、いちにーさぁーん、ごーろくしちはち」

とんとんとーん・とんとんとんとん

とんとんとーん・とんとんとんとん

「わかる?」

「ええ。なんか運動部のかけ声みたいっすね」

「あはは!そうねぇ。うん、大丈夫。強がりでもそれだけ余裕があれば大丈夫よ」

そういって微笑むと、先輩は左手を差し出して僕にも手を出す様に促した。そしてテーブルにおかれた僕の手の甲に掌をかさねる。温かい。単純なようだが、それだけで僕の恐怖心は少し薄らいでいった。
< 19 / 45 >

この作品をシェア

pagetop