水とコーヒー
#5
「私がこうやってリズムを刻むから、貴方は心の中で『一二三・五六七八』って唱え続けてね。口では色々説明してもらうから呟かないで、心の中でね。どんなものを見ても、なるべく驚かないで、帰って強く数字を念じてね」

「はい、いちにーさぁーん、ごーろくしちはち、ですね」

「そうそう。ちょっと練習してみる?」

「いや、大丈夫です」

「それじゃ玄関前から行きましょう。目をつむってね。外からの情報は少ない方が集中しやすいから」

「…はい」

云われるがままに僕は目を閉じる。そして懐かしい団地の外観を思い出そうとしていた。

「おうちは団地の何階にあったの?今何が見える?」

「2階です。今思い出してるのは外の窓枠ですね。二階の…僕の部屋です。東側にあって、どの窓にも鉄製の柵がかかってたんですよ。多分落ちない様に」

「そう、色は?カーテンもみえるかしら」

「柵はオレンジのペンキで塗られてましたね。何度か塗り替えられたけど、大体いつもオレンジだったなぁ。カーテンは…水色のペイズリーだったと思います。網戸でよく見えないけど」

「中から見なくちゃわからないなら、そこはいいわ。階段を上がって二階に行ってね」

とんとんとーん・とんとんとんとん。
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