水とコーヒー
「扉がみえる?どんなものかしら」

「鉄製です。真ん中あたりに新聞受けの穴が空いていて…所々ペンキが剥げてます」

「鍵は?」

「持ってます」

「じゃ、開けて入りましょうか」


とんとんとーん・とんとんとんとん。


「はい、玄関です」

「“ただいま”は?」

「あ、はい。ただいま…」

少し気恥ずかしくなりながら、ぼそりと口に出す。先輩のクスリと笑う声が聞こえたが、おかげで少し余裕が出てきた。

「返事はない?」

「あ、そうですね。ないです。誰も帰ってないみたいです」

「そう。玄関には靴がある?」

「えーと…親父の予備の革靴と、姉貴のスニーカーと、サンダルと…僕のスニーカーもあります」

「みんなが普段履いている靴はないのね?」

「あ、はい。ないですね。みんな出かけてます」

「そう。見慣れない靴はない?」

「…ない、と思います」

「そう。靴箱はある?中を開けてみて」

「あ、はい。特にかわったことはないですね。ああ、なんか親父の靴磨きをしたときの臭いがします。靴磨きの…なんだろワックスみたいな?」

「うんうん、随分鮮明ね。変わったことがなければ靴を脱いで家に上がってね」


とんとんとーん・とんとんとんとん。
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