水とコーヒー
「どんな言葉で励ましたのか、励まされたのかはわからないけど、言葉には力があるからね。そのときその人には、どんなに親しい人からの言葉よりも力づけられたのよ。でも、それを…彼女の言葉を借りれば“裏切って”しまったのね…最後に自らの命を絶ってしまったことで」

「そんな…」

僕はそれきり言葉を失ってしまった。放心したかのように視線を彷徨わせる。辿り着いたのはコーヒーと水だった。コーヒーはすっかり湯気が消え、水の入ったグラスは足下に滴が伝い落ちた水たまりを作っていた。


「だから、それが未練になっちゃったのね」

そういうと先輩は、テーブルの上に置きっぱなしになっていたポケットティッシュを一枚とって「失礼」といってから洟をかみ、それから「どうぞ」と今度は僕にも勧めた。操り人形のように勧められるがままに、僕も洟をかむ。涙をぬぐう。


「…以上、たとえ話終わり」

「…はい」

「さ、いただきます。泣いたら余計にお腹空いちゃったわ。キミもなんか食べれば?」

「や…僕はいいです…」
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