Au Revoir―再会―
「あっ、冷たい…」
知らぬ間に満潮時刻になっていたようだ。
だいぶ海水が進水している。
ミュールから覗かせる爪先が、ササーッと静かに押し寄せる波に濡れる。
「七海の名前って、いいよな」
「えっ?何、急に」
「だって、名前に海が入ってるだろう?七つの海だなんて、ご両親も洒落てるなぁと思って。
俺なんて、堅苦しい名前だからな。字画は多いし、子どもの頃、テストで時間かかって面倒臭かったよ」
柔らかい笑顔で、謙が笑う。
なんだろう。胸がキュッと痛む。
謙のこと、忘れたはずなのに。
何度も、忘れようとしたはずなのに。
あたしはこの胸の痛みを押し隠すように、天を仰いだ。
「あっ、星が出てきたよ」
少し離れると、表情が分からなくなるくらい、辺りは暗くなってきた。