優しい声
「…健吾…」

声を出そうとしたけれどうまく出なくて。
渇いた口の中で微かな濁音が響いただけ。

「ありがとう…。柚…。よく頑張ったな…」

私の頭をゆっくり撫でる
健吾の言葉が体中に染みていく。

あぁ…私は助かったんだ。
ちゃんと生きてるんだ…。
額に感じる健吾の指先が、私にもまだ生きる時間が与えられたと伝えてる。

「さ…く…ら…」

弱々しい声しか出ないけれど、何とか声にして。

必死の視線を健吾に送ると、ちゃんと私の問いが伝わったみたいに笑って。

「ちゃんと元気に産まれた。
柚のお腹に長くいたから、予想以上に大きい。
ま…それでも保育器に入ってるけどな」

良かった…。
早く出産しないと私の体に負担がかかりすぎるからと…。
桜…娘の成長は保育器に任せようと何度も説得されたけど。

30週を過ぎて、もう私の体力が限界になるまで頑なに拒否をして。

昔交通事故に遭って以来、体が人より機能的に劣る生活を強いられてきた私。

ようやく授かった娘の体に何の障害もないよう、一日でも長くお腹で成長させたくて頑張った…。

もしも私が桜を抱く事も育てる事もできずにこの世から消えてしまう運命なら、せめて元気な体で産んであげたかったから…。


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