喪失
残景、文月
今にも止まりそうな速度で急角度の坂道を上っていく錆びた自転車は、ペダルに力を込めるために軋むような金属音を響かせる。

夕方になってもなお、まだ熱を孕んだ空気にまとわりつかれ、必死に身体が体温を冷やそうと水分を放出する。

なんとかバランスを保ちつつ、必死に立ちこぎをする俺の後ろから聞き慣れた声。

「ほらほら、もっと頑張りなさいな」

乗っているだけでなんでそんなに偉そうなんだ、貴族かよお前は。

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