放たれた小鳥
手代木 純
 男かと、思った。
 あるカフェでコーヒーを運んできた女はまるで男のようだった。顔は綺麗だ。化粧は目を囲んだスモーキー・メイクでちょっと顔を見ただけでは、そこらへんの囲み目メイクの女の子と変わらない。それなのに何故かとても、男っぽく感じる。
 スレンダーな体におそらく160㎝後半はある長身。この店の制服はズボンとスカート、どちらでも良いのだろうか。彼女はズボンをはいていた。
「お待たせしました。ホットコーヒーでございます」彼女は声も低かった。少しハスキーで耳に心地よい、声。
 一礼してどこか眠たげな瞳で僕を一瞬見て、彼女は去っていった。歩き方も男っぽい彼女を女と再認識したのは彼女の胸の膨らみを認めたからである。
 だが結局、彼女は僕の頭にそう長くは残らなかった。
 その時はまだ、彼女は日常のちょっとした驚きの一つにすぎなかったからだ。
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