魔女の報酬
 彼女はほうきの向きを変え、ドラゴンの真正面に飛び出した。ドラゴンの片目が潰れていることが、ここでも功を奏していた。

「危ない、メディア!」

 下から王子が叫んでいる。

(わかり切ったこと叫ばないでよ。誰にためにこんな苦労してると思ってんのよ)

 頭の隅で悪態をつきながら、メディアは軽々とドラゴンの炎の息をかわし、必要な呪文を紡いだ。手のひらに力が集まるのが感じられ、やがてそれは虹色の光の玉になる。

(いける!)

 再び、ドラゴンの真正面に飛び出したメディアは、乙女らしからぬ言葉でドラゴンを罵倒した。

 人間の言葉はわからなくても、そのニュアンスを感じ取ったのだろう。金色のドラゴンは怒りの形相も新たにかっと口を開いた。長く鋭い歯の間から真っ赤な炎の塊が押し出されようとした。だが、すでにその間合いを測っていたメディアは、ドラゴンが炎を吐き出してしまうよりも速く、七色の光を放つ玉をその口に放りこんだ。

「これで終わりよ!」

 炎の息は吐かれず、ドラゴンは内側から虹色に輝き出した。苦しそうに脈動しながら、縮んでいく。

「くうおおおおーーん」

 苦悶の叫びがもれるが、魔法の顕現は止まらない。巨大で凶悪なドラゴンはついには金色の小さな卵に姿を変えた。一瞬宙に静止したかに見えたそれは、すとんと眼下の森の中に吸い込まれて行った。

 ふうー、メディアは大きく安堵のため息をついた。もうほとんど気力も体力も魔力も使い果たしていた。極度の疲労に心身が苛まれている。気が遠くなるのを感じた。

 そして、暗転……。
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