ダイヤル
遠目から見る彼は
顔が見えなかったせいか
いつもより綺麗だった。
今日は女の子と一緒じゃなかった。
きっとあたしを待ってたんだ
ってあたしは思いたくて
でも話し掛ける勇気はなくて
存在に気づいてほしかったから
その彼が座るベンチより
少し離れたところにあるベンチに
さっき自販機で買ったココアを持って座った。
あたしはしばらく彼を見つめてみた。
でも彼は気づく気配もなくて
ずっと目線を足元に落としたままだった。
あたしはそれから20分くらい
ずっとそこに座っていた。
はっと気づいてもう少し冷たくなったココアを飲み干し、
あたしは家に向かって歩き出した。
しばらく歩いていくと
誰かに肩をたたかれて
後ろを振り向くとそこに彼がいた。
「ねえ、俺が家まで送ってってやるよ。危ないから。」
「あ…」
あたしは何も言い返せなくて
とりあえず歩き出した。
また彼は言う。
「なんでしゃべらないの?なんかあった?」
「手、つなごう」
あたしは無意識に発した
自分の言葉にびっくりした。
でも彼はすぐに
「いいよ。俺、成海陽ってんだ。俺の名前覚えといてよ。」
成海ってゆう苗字だけ聞いたら
女の子みたいなその男の手は
華奢なはずなのになぜかたくましく感じた。