ダイヤル
―「ねえ、
…話聞いてる?」
「えっ?」
「お前の名前聞いてんの!」
「ああ、あたし。」
「そう。お前。」
「あたしは…弘前百合。」
「へえ。で、どっち曲がるの?」
あたしは話を聞いてなかった。
成海が握るあたしの手が
熱くなっていくのを
隠すのに必死だった。
繋いでるんだから隠せるわけないのに。
あたしは成海陽と言う男に抱かれたいのか。
はっきりした気持ちがあるわけじゃない。
ただなぜかあたしは成海が
いつものベンチで女の子と
抱き合っているのを思い出した。
いや、思い出したと言うよりずっと考えてた。
心の中から沸き上がってくるどす黒い気持ちが
なんなのかはわからなかった。
よくよく見れば彼のポケットには
二つの携帯が狭苦しそうに入っていた。
「どうせ一つは女の子用でしょ。」
「は?」
あたしはボソッと
ありのままの気持ちを口にすると
すぐあのどす黒い気持ちが
すーっと引いてくような心地を覚えた。
「あたし、ここでいい。」
「なんで?」
「家すぐ近くだから。」
「…そう。気をつけて。」
あたしは成海と別れて歩き出した。
少ししてから振り向くと
成海が多分女の子用であろう
傷のついたケータイで
どこかに電話をかけていた。
彼がこれから女の子に会うのかと思うと
またあのどす黒い気持ちが込み上げてきた。