隠れ鬼ごっこ
ー拓海 Sideー

「つっ…」


俺は頭を踏みつけられ、蹴られて意識が朦朧とする中、必死で鬼の足に食らい付いていた。


この手を離せば…こいつは、俺の友達を殺しにいく。


それが分かってたから、絶対に離すまいと足にしがみついた。


怜たちは、後ろを振り返らずにどんどんと先へいく。


正直…死は怖い。


思った以上の恐怖だ。


死ぬと言うことはどういうことだか、わからない。


死の先に、何が待ってるのかもわからない。


俺が消えてしまって、そのまま意識がプツンとなくなってしまうのか…。


考えただけで恐ろしい。


だけど…その恐怖を乗り越えて昴は俺を助けてくれたんだ。


それに、よくあるような天国と地獄の世界があって死んだあとはそこにいくとしたら…運が良ければ昴に会えるし…。


てか、それを信じないと自分の捨てたはずの弱い心に押し潰されてしまうから…。


だから、今は怜たちを助けることだけを考えるんだ。


「このっ…!」


このボロボロの体ではもう出来ることは限られている。


だから…鬼の足に噛みついた。


ガブッ


「!」


鬼は驚いたような表情を浮かべた。


しかし、その内に狂気の表情を浮かべて笑った。


ーーゾクッ


凄い寒気が体を走った。


そして、鬼は思い切り足を噛みつかれているのにも関わらず…平然としゃがみこんで耳元でこう言った。


「ーーホラ、前ヲ見テゴラン。…君ノ友達ハ君ヲ置イテ逃ゲタンダヨ。ダカラ…君ハモウスグ……死 ヌ ン ダ…♪友達二見捨テラレテネェ…♪」


「!」


カタカタと体が震える。



見てはいけないとは思いつつもチラリと怜たちを見た。


怜たちは曲がり角を曲がろうとしているところだった。


ーーこの時ほど、後悔したことはない。


「あっ…!」


自然と噛みついていた口を外した。


だって…怜たちは振り返りもせずに…曲がり角に消えていこうとしたから。


閉じ込めていた恐怖が、俺を一気に襲ってしまった。


「あ…!待って…!!」


つい言葉に出してしまった。


でも、そんな俺の思いも虚しく怜たちの姿は曲がり角に消えて行ってしまった。


絶望が目の前を覆う。


そんな俺を楽しそうに見ていた鬼は、これまた楽しそうにまた囁いた。


「ア~アァ~…モウ君ハオシマイ。…サヨ~ナラ~…♪」


唖然とする俺の胸ぐらを掴み…空中に投げつけたと思った瞬間…


ーーズシャッ


俺の胸は引き裂かれた。


胸から赤い液体が吹き出す。


そして、虚しく俺の体は廊下に叩きつけられた。


「あっ…ぐ…」


口から血を吐き出す。


天に向かって手を伸ばした。


なん…で、こんな事に…なったんだろう…?


消えそうな意識の中で俺は考えた。


涙が溢れた。


だって、こんなことがなければ…こんな風に恐怖を味わって死ぬことはなかったんだ。


いつもみたいにバカやって…平凡でつまんねー日々でも平和で楽しく過ごせた筈なのに…。


こんな所で…死ぬなんて…。

まだやりたいことだって沢山あった。

夢や希望だってあった。


それなのに…なんでこんな訳のわかんねーことで…俺や昴は死んでアイツ等は生き延びれるんだよ…?


なんでこんなことに…


そんな拓海の様子を見た鬼はまたニヤリと笑った。


醜い俺が出始めたときだった。


ー「こうなったの俺達自身の責任だっ!自分自身で“やる”って言ったんだ!誰のせいでもない。」ー


「…!」


ふと思い出した怜の言葉。


そう…だ。


俺たちは…皆でやろうつって…やったんだった。


俺が今倒れてるのは…自分がそうしたいと…こんな馬鹿な俺でも…役に立ちたいと思ったからじゃないか…!


絶望に染まっていた目に光が宿り出す。


そう…だ…あのとき…俺は自分のことしか考えなかった自分を…許せなかったんじゃないのか…?


昴を…失った弱い自分が…許せなかったんじゃないのか…?


なのに…何負けそうになってんだよ…!


自分で決めたことだろ…!


最後ぐれぇ…しっかりしろや…!!


ググッと動かせないから体を無理やり起こした。


「!」


鬼は今度こそ驚いたように拓海を見た。


「負け…て、たまる…かよ…!お前…なんかに…俺…なんかに…!負けて…たまるものか…!」



もう逃げねぇ。



全てを受け入れる。


その上で…怜たちを助けるんだ…!


最後の力を振り絞って拓海は、体を起こした。


「うらぁぁぁ!!」


「!」


そして、そのまま窓の外に向かって鬼に体当たりをした。


ガシャン!と激しい音を立てて窓ガラスは砕けた。


ここは3階。


落ちれば両者とも無事では済まない。


「このまま…!てめぇを道ずれにしてやる…!」


そして、鬼と一緒に地面に落ちていくはずだった。


しかし…


「ざーんねーん♪」


「!」


ボンっと紫色の煙が現れたかと思うとあのピエロがそこから出てきた。


そして、指を鳴らすと…そこに鬼の姿はなくなり、窓ガラスの向こうから拓海を見下ろしていた。


「な…んで…」


上を見る拓海は、驚きを隠せない。


したに落下していくのは…拓海だけだったのだから。


「困るよ~、そんなことされたら~!…折角、近くに3人も獲物がいるのに君だけ脱落にされたら、面白くないでショー?」


そのまま、拓海の落ちるスピードに合わせてピエロも降りてきた。


「しかし、本当に残念…!せーっかく、鬼が闇に落としてから殺そうとしてたのに…良いとこまでいって落ちないんだもーん。ガッカリ~!」


「闇に落ちた魂は美味しいのにサー」と残念そうに…でも、余裕を持って言うピエロに俺は悔しくて歯を食いしばりながら睨み付ける。



「まっ、いーけど。結局君は~…だーぁれも、救えなかったんだからサァ~!」


ニヤリと笑うピエロに、一発かましてやりたくなるが、もうどうすることもできない。


「あーあ、つまんなかったなァ~。でも、役立たずの君にはヨウナシダネッ!サヨナラ~、拓海クン…♪アハッ…アハハハッ…♪」


不意に降りるのをやめたピエロは勝ち誇ったような顔をしながら、手をふる。


畜生…畜生…!


何もできなかった…!



地面と俺との距離は近い。


悔しさでいっぱいだったが、俺はそれではあの二人の思惑通りだと思って最期の強がりを言う。


「はっ…言ってろよ…くそピエロ…!怜たちはお前の思惑通りにはなんねーよ!ザマーミロ!バーカ!」


あっかんべーとしながら俺はそのまま落ちていく。


そんな俺にピエロは真顔になったが…


「…アッソ」


そう言うと、消えていった。



その刹那…


…グシャッ

地面に叩きつけられた。


あっ…もう…流石に…死ぬな…


すぐに消える意識の中でそう思った。


みんな…生き残れ…よ…


そう思うとふっと笑い闇に身を委ねた。


その様子を少しの間鬼は見ていたが、すぐに怜たちの後を追った。
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