隠れ鬼ごっこ

「ごめん、ごめんごめんごめんごめん…」


「………」


ぶつぶつと謝罪の言葉を壊れたレコードのように呟き続ける。


その様子を見ていた雅明が深く深呼吸をし、息を整えながら怜の肩を掴んだ。


「……？」


怜が振り向くのと同時にーー


ーーパァン


その頰に平手打ちをした。


「えっ………」


じんじんとした痛みに呆然としつつ、意識は鮮明となった。


思わず出た間の抜けた声。


ゆっくりと雅明を見ると怒った表情をしていたが、その振り上げた腕は微かに震えていた。


「落ち着いて、怜。謝ったって…拓海が帰ってくるわけじゃないんだよ」


「…！」


悲しげにそう言う雅明の顔を見つめることしかできなかった。


その目には涙で溢れていたから。


「拓海との約束を…守るって決めたのは怜だよ。僕は…戻ろうって必死で叫んだもん。でも、それでも走ったのは怜でしょ？それなら…きちんと守ってよ。そんな闇雲になってる怜を……僕、見てられないよ…っ！」


堪えきれずに溢れ出した涙は止まる気配がなかった。


そんな友人の顔を見て、やっと我に返った。


「……そうだな。ごめんな、雅明。俺ばかりが辛いみたいにして。ごめんな、無視して。俺…きちんとするよ。拓海や昴の為にも。だから、だから…」


どうか泣かないでくれ。


心優しいお前に平手打ちまでさせて…慣れてないことをさせて本当にごめんな。


泣き崩れる雅明を支えながら俺は心の中でそう呟いた。


「僕こそ…ごめんね。頬っぺた痛かったよね」



「いや、これくらいなんてことない。これなら前に体育の授業でお前とバドミントンをした時に、運動音痴なお前のラケットを頭で受けた時の方が痛かったぞ」


体育のフリータイム中にダブルスをした際に、バドミントンの羽を打とうと後ろに下がった怜に、後衛で必死に慣れない運動をして前が見えなかった雅明が、返そうとして丁度怜の頭の上に来た花に対して、羽ではなく頭にスマッシュをしてしまった時の話をする怜。


「あん時は頭から血が出たし、気絶したからな。それに比べれば意識があるし、寧ろ眠気が覚めたくらいだ」


そう微笑む怜に驚きながらも、雅明も涙を拭いながら「こんな時に恥ずかしい話しないでよ」と笑いながら言い返した。


ハラハラとさっきまでの様子を見ていた真里も少しだが和やかな空気にほっとした。


「よし、じゃあさっさと進もう。鬼がすぐそばまで来てるかもしれないからな」


「そのことなんだけどーー」


そこまで雅明が言った時だった。


その、500m先にあの鬼の姿が怜の瞳に映った。


「！やべぇ！そこまで来てる！！走るぞ！2人とも！」


そこまで言う前に2人は走り出していた。


随分離したと思っていたが流石は鬼。


ものすごいスピードで3人へ近付いて行った。