キミ色ヘブン
そして何を思ったのか私の唇をグイッグイッと親指で擦る。

「な、ななな?な?何?」

「うん。やっぱこっちのがいい」

ニッと笑った顔で白い歯が光る。

中山君の親指に移る私の濃いピンクの口紅とグロス。

それって私の化粧が濃すぎって意味?

彼の指についた私のグロスはやらしくテラテラ光っていた。まるで私の下心を映し出すように。

急に沸いて出た羞恥心。そして羞恥心を覆い隠そうとして生まれる怒りに似た攻撃的な感情。

「さ、触らないでよ、そんな急に」

「じゃ、訊いてからにする。……白川さん、キスしていいですか?」

「え?ええッ!?はぁ!?」

今って、そんな雰囲気?

でも、確かにそれはどんな鎮静剤よりも効果的な言葉。訳わからない頭。怒りも吹っ飛んでしまう台詞。

「目ぇ、閉じた方がいいと思うよ?」


覚えているのは目を閉じる直前、荒れた風に合わせるように揺れるメドゥーサの髪、それから波間を優しい光がダンスしていた事だけ──
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