フェアマン~愛しい彼はハーフの男の子~
さほど広くない教室は、いっきに騒がしくなった。まるで学園祭をしているかのようだ。今やマジメに課題に取り組んでいる生徒はほとんどいなかった。
 取り組んでいるのは超マジメな生徒か、マイペースな生徒か、麗だけだった。
 私の斜め前に座った麗は、勇太の方をチラリとも見ない。騒々しい中、黙々と課題をこなし、終わればテキストをパラパラとめくった。
 ときおり『ハア』とイラだったように、ため息をついて。
「はーい、そろそろ次へ行きたいので、40分には課題を片づけてちょうだい」
「えーっ!40分。無理!まだ勇太君に聞いていないもん!」
「それ以上は待たないわよ。宿題出されたくなかったら、授業中にやっちゃって」
「なんでぇー?」
女子生徒の大半は、大ブーイングした。勇太と話せないのが、不満らしい。私も厚い垣根の外でこっそりふて腐れた。しかし課題を片づけないと宿題にすると言われ、しかたなく席に座った。
 それでも名残惜しくて勇太を見れば、疲れた顔でボーッとしていた。その様子に、ドキッとした。
―『彼に悪いことをしたかもしれない』と思って。―
 たくさんの人に教え、とても疲れたに違いない。
(ごめん、勇太君…)
何だか胸が痛んだ。これからは自分の思いばかりぶつけるのではなく、彼の事を考え行動しようと思った。
「いい気味」
ふいに、ポツリと呟く声が聞こえた。麗の声だった。勇太の様子を見て言ったに違いない。
 しかし私は『ざまあみろ』と言っているように聞こえ、カチンとした。親友だが、許せなかった。今すぐ説教したかった。
(…いや、ダメだ。麗はプライドが高いから、きっと逆ギレする。休み時間になるまでガマンしよう)
のど元まで出かかった言葉を飲み込むと、怒りのあまり血が沸騰しそうになった。頭がクラクラする。
(ガンバレ、ガンバるんだ私!あと少しの辛抱だから!)
超ド級の激しい戦いが今まさに始まろうとしていた。

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