アリスズc
∠
 テルは、ヤイクの前で手紙の封を切った。

 まず、ハレのものを開く。

「ハレが、すごいものを拾ったらしいぞ」

 なかなか豪胆なことをしたものだと、テルはつい笑みを浮かべてしまった。

「いやな予感しかしませんね」

 その表情に、ヤイクは苦笑している。

「月の娘だそうだ」

 月の一族から、逃げているところを保護したという。

「それは…余計狙われる材料になりませんか?」

 彼の言い分は、もっともだ。

 だが。

「娘を差し出せば、あいつらが俺たちを襲わないでいてくれるのか?」

 手紙を封に戻しながら、テルが言うと。

「あぁ…それもそうですね」

 あっさりと、ヤイクは引きさがった。

「魔法を使う月の者が、奪い返しに来たのを撃退したそうだ…向こうも頑張っているようだな」

 魔法、という言葉に、彼の文官は首を振っている。

 もう二度と御免だ、というところか。

 次に、父の手紙を開いた。

「…叔母だ、そうだ」

「叔母、と言いますと…いやな心当たりが一つしかありませんが」

 ヤイクは、鋭く頭のいい男だ。

 テルが何を言わんとしているのか、大体分かっているのだろう。

「その嫌な心当たりの叔母だ…幽閉先にいたのは、狂った違う女だったらしい」

 昔々。

 テルが生まれる前。

 父の妹は、オリフレアの母を殺そうとした。

 その咎で、一生幽閉されることになっていたのだ。

 あの髪の長さは、伸ばし始めて2年くらいか。

 2年前、誰かが叔母と狂った女を入れ変えた。

 そう。

『誰か』がいる、ということだ。

< 140 / 580 >

この作品をシェア

pagetop