アリスズc
∠
「モモは、快く承知してくれたよ」

 今度は、ハレが部屋へやってきた。

 そうだろうなと、テルは頷いた。

 彼女は、旅立ちたがっていたのだ。

 わざわざ、自分に頼むほど。

 断るはずがない。

「それで、今度は私がテルの同行者を推薦したいんだが」

 報告だけかと思いきや、ハレは奇妙な方向に話を持って行った。

 その流れが引っかかって、テルはわずかに瞳を細める。

 腹の中で一緒だった兄弟とは言え、彼の考えていることは、往々にして読めないのだ。

「ヤイクルーリルヒという貴族を連れて行かないか? 彼は、きっとテルの力になる」

 同行者は、基本的に文官役1名・武官役1名。

 その文官を、推挙してきたのだ。

 ヤイクの名を、テルは知っていた。

 賢者の甥だ。

 年は、彼らより10歳ほど上。

 だが、賢者の甥という肩書よりも、ヤイクという男には別の二つ名があった。

『花食い』

 彼が、ウメやエンチェルクという女を、ブレーンにしているからだ。

 女の知恵を吸っている。

 それを、他の貴族たちに皮肉られているのだ。

 だが、妬まれるほどに、イデアメリトスの覚えめでたいことは確か。

 そんな男を、一緒に連れていけと言う。

 面白い人選だ。

「あの男は、どちらかというとお前の好みだろう? 何故、自分で連れて行かない」

 面白すぎて、テルは疑いの目を隠さなかった。

「私はね…彼を買っているんだよ。だから、彼には賢者になって欲しいと思っている」

 そんな疑いの目を、軽くハレは受け流した。

 その言葉だけで、十分納得させられた、というか。

 要するに。

 どっちが太陽になっても、ヤイクという男が賢者になれるよう、布石をしに来たというのだ。

 ハレが太陽になる時は、彼自身が指名する。

 テルが太陽になる時は、テルの同行者として賢者になる。

 会って、みるか。

 ハレが、ここまで推薦する男に。

 興味がわいてきた。
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