アリスズc

「モモは、快く承知してくれたよ」

 今度は、ハレが部屋へやってきた。

 そうだろうなと、テルは頷いた。

 彼女は、旅立ちたがっていたのだ。

 わざわざ、自分に頼むほど。

 断るはずがない。

「それで、今度は私がテルの同行者を推薦したいんだが」

 報告だけかと思いきや、ハレは奇妙な方向に話を持って行った。

 その流れが引っかかって、テルはわずかに瞳を細める。

 腹の中で一緒だった兄弟とは言え、彼の考えていることは、往々にして読めないのだ。

「ヤイクルーリルヒという貴族を連れて行かないか? 彼は、きっとテルの力になる」

 同行者は、基本的に文官役1名・武官役1名。

 その文官を、推挙してきたのだ。

 ヤイクの名を、テルは知っていた。

 賢者の甥だ。

 年は、彼らより10歳ほど上。

 だが、賢者の甥という肩書よりも、ヤイクという男には別の二つ名があった。

『花食い』

 彼が、ウメやエンチェルクという女を、ブレーンにしているからだ。

 女の知恵を吸っている。

 それを、他の貴族たちに皮肉られているのだ。

 だが、妬まれるほどに、イデアメリトスの覚えめでたいことは確か。

 そんな男を、一緒に連れていけと言う。

 面白い人選だ。

「あの男は、どちらかというとお前の好みだろう? 何故、自分で連れて行かない」

 面白すぎて、テルは疑いの目を隠さなかった。

「私はね…彼を買っているんだよ。だから、彼には賢者になって欲しいと思っている」

 そんな疑いの目を、軽くハレは受け流した。

 その言葉だけで、十分納得させられた、というか。

 要するに。

 どっちが太陽になっても、ヤイクという男が賢者になれるよう、布石をしに来たというのだ。

 ハレが太陽になる時は、彼自身が指名する。

 テルが太陽になる時は、テルの同行者として賢者になる。

 会って、みるか。

 ハレが、ここまで推薦する男に。

 興味がわいてきた。
< 15 / 580 >

この作品をシェア

pagetop