アリスズc

「月の連中は、見つけたら即殲滅…助けた訳じゃないわよ」

 オリフレアは、テルに向かってはっきりとそう言った。

 彼女を守るフードの武官とビッテが、雷の逃したわずかな残敵を狩っている。

 もう一人の武官と側仕えの女が、オリフレアを守っている。

 テルの側には、返り血にまみれたエンチェルク。

 足を痛めているようだが、彼女もまたテルを守るために立っていた。

 ヤイクは、もう一歩も動けないというように路傍の石に腰掛けている。

「ああ、分かってる」

 凄まじい雷だった。

 テルも、勿論それを使うことが出来るが、それぞれ微妙に得意な方向は違うようで。

 彼女ほどの雷は、テルでも無理だろう。

 何しろ、雷は制御しづらい。

 味方に落ちるかもしれないあの状況で、何の迷いもなくぶっぱなせるのは、そうなっても構わないと思っているオリフレアならでは、なのかもしれなかった。

「…何故戻ったの?」

 彼女の口調が、咎める色を纏う。

「おもしろい戦法をしているようだったのに、何故もう少し続けなかったの?」

 武官の一人が、斥候でもしていたのだろうか。

 たとえしていたとしても、あの疾走の中、彼らより速く戻り報告したということを考えると驚嘆に値する。

 よほど、素早い男がいるようだ。

 向こうのフードだな。

 ヤイクは、ちらりと残党狩りの方を見た。

「犠牲が0の可能性があったからな」

「犠牲が4の可能性もあったでしょ?」

 テルの答えなど、オリフレアにはお見通しだったのか。

 即座に、言葉をかぶせられる。

 エンチェルクが、ちらりとこちらを見た。

「俺は、俺と国のために、犠牲を0にする必要があった」

 文句があるのか?

 まっすぐに、言葉で斬りつける。

「ほっとけばよかったわ!」

 オリフレアは、頭に血が昇ったように怒りに顔を赤らめた。

「次は、是非そうしてくれ」

 テルが笑うと、「次なんかないわよ!」と更に彼女は怒り狂う。

 そうだな。

 次はない。

 オリフレアも、ここで使ったのだ。

 たった一度の魔法を。
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